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他人の振り見て我が振りなおせ

   もっともなことわざで、いまさら意味を問うこともないと思うが、飛行機の教習現場ほどこのことを痛感することはない。練習したくてもできないことがあった りうっかり練習すると命にかかわることもある。だからいろんな事故事例からなぜ事故が起こるかを学び、どうしたら事故を起こさないですむかという対策に結 びつける。

   ところがそのことが如何に難しいいかということをしめす事件が起こった。実は恥ずかしい話だが、今年(2006)の正月早々うちの飛行機がハイウェイに不 時着するという事件が起こった。幸いにも、けが人は無く、機体も無傷、巻き添えも何もなしというすばらしい着陸だったようだ。しかし原因が悪い。ガス欠。 しかも反対のタンクにはまだたっぷりガソリンが残っているではないか。ご存知のとおり通常燃料タンクは翼内にある。たいていは左右の翼に分かれている。高 翼機は左右のタンクから同時に供給されるが、低翼機は片方ずつしか供給できないので普通は30分に一回タンクを切り替えることになっている。どうやらそれ を忘れたというのだ。きれいな不時着もこれでは帳消しだ。起こるはずの無い事故。ただのボンミスで世間を騒がせてしまったのだ。地元のテレビは大騒ぎで、 ハイウェイで途方にくれるパイロットを指差して「彼が、タンクの切り替えを忘れたパイロットです。」などと放送していたり。早速ミーティングを開いて手順 の確認にや対策を話し合った。みんな自分で無くってよかったと思いつつ、絶対こんなへまはしないぞと心に誓ったことだろう。

   ところがそれから一月しか経っていないのにだ、同じ事件が起こってしまった!2月12日午後。空港にあと1マイルというところで無線にELTの音がかぶり だした。こんなところで誰が、と思って見渡したところ、眼下のTully Roadに低翼機が座り込んでいる。なんだかダメージもありそうだ。着陸後集めた情報によると"One tank dry, the other full."だそうだ。なんてこったい。操縦していたパイロットもベイエリアの住人だというからきっと正月のニュースを見て知っているはずだ。ハイウェイ に降りた飛行機を笑っていたに違いない。まさか自分に起こるとは思ってもみなかったのだろう。

   幸いけが人は無かったものの機体は相当の被害。あの丈夫なランディングギアが完全につぶれている。そのおかげで人が助かったんだろうけど。

   他人事だと思っちゃいけませんね。