判断力、決断力
先日ニューヨークのラガーディア空港発のUS Airwaysの飛行機がハドソンに緊急着水しました。幸い死者ゼロ!軽症者が何人か出た程度というのはこの手の事故から考えると奇跡といってよいでしょ う。事故の原因は鳥を吸い込んだことによる両エンジンの停止だそうです。パイロットの取ったこの処置にっ賞賛の声が上がっています。彼の判断力、決断力は どこから来たのでしょう?
機長の経歴は 40年にも及び、空軍の戦闘機乗りでもあり、グライダーのパイロットでもあります。戦闘機は滞空時間が短く、いつでも燃料のことを考えて飛ばなくてはいけ ません。燃料が切れたらどうやってどこに下りるか?地上に被害を出さず、出来れば飛行機も安全におろしたい。そういう思いがあるはずです。
グライダーは動力がないので滑空のみです。上昇気流の中で高度を稼ぐことは出来ますが、基本的には下降していくだけです。少ないオプションの中から最良のものを選ぶ必要があります。これらの訓練を通じて的確な判断力と決断力を培って行ったのだと想像できます。
ただ、彼がなぜグライダーの免許も持っているの か。もしかしたら、こういう事態を想定して、自らの判断力を高めるためにグライダーの訓練を受けた、と考えるのは買いかぶりでしょうか?今回の事故が起 こったのは離陸直後、高度950メートル(3000ft)ほど。この時、機はすぐに機首を約90度左に振っています。テタボロ空港に向かおうとしたので す。しかしすぐに届かないと判断され、更に90度旋回、ハドソン川に下ります。
これらのことは離陸前に想定して打ち合わせの中にあるシナリオだったとは思いますが、実際に起こったときに「テタボロに届かない」と決断するためには、飛行機の滑空距離を瞬時に計算する必要があります。自分の搭乗機の性能を十分に熟知していないと難しいです。
私が思うのは、機長はいろんな事態を想定し、日常的にメンタルシュミレーションをして対処の準備をしているのではないかということです。航空機を飛ばすものとしては当たり前のことなんですが、実際にそれを実行せずに、のほほんと飛んでいる人も多いのではないでしょうか。
われわれの訓練でも、「とにかく免許さえ取れれば いいんだ」という生徒がいます。早く免許を取って、国に帰って書き換えをすればジェット機の副操縦士のポジションがあるんだ。更には「最近の飛行機はいろ んな装備がついいていて、もう職人というほどの技術は要らない。」とも。だから余計の訓練は要らないから早く終わらせてよ、と。そうかもしれません。だか ら免許さえあれば良いのか?そうではないです。飛行機に100パーセント頼り切っていては、今回のような事故は乗り切れなかったでしょう。いつも何が起 こっても対処できるように知識と技量を高め、想定外のことを想定して対策を講じておく。この姿勢がなければ免許はただの紙切れです。
この事件から、教官の仕事の重要性を再認識しました。パイロットがどうあるべきなのか。これは教官の教え方次第なんですね。そう思えば責任は重大です。知識、技術、そして安全に対する備えを常に怠らない態度。この機長の姿を目標に今後もがんばりましょう。
最後に、この事故での着水後、乗客乗員全員が救出された後も機長はもう一度機内に残っている人がいないか確認したそうです。徐々に沈んでいく飛行機の中でです。「逆噴射」の片桐機長が何食わぬ顔で救出されていたのとは大違いです。今回の機長は責任を全うしました。
(01-16-2009)