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レッドバロンとセスナ152

   飛行機の教習に最もよく使われる機体はセスナ152だ。日本ではあまりなじみが無いが、高翼、単発、二人乗りのこの機体は使いやすさ、経済性の点で他機の 追従を許さない。多くの飛行機学校が入門機として採用している。うちの学校でも10機が常時稼動している(生徒がいないシーズンはもちろん稼動していな い)。この飛行機は、飛行機界の原チャリだ。手軽に扱え燃費が良く小回りが効く。その反面、物が運べない、遠出に不向き、よく揺れるという欠点まで同じ。 それでもたいていの人はセスナ152で免許を取ってその後セスナ172へとステップアップして行く。

   エンジンはライカミング社製のO-235水平対向4シリンダー最高出力110馬力。110馬力?そんなに?と思うか、たったそれだけ?と思うか。最近の車 のエンジンだってもっと出力があるぞ。なのに飛行機が110馬力。少し悲しいかな?まあ原チャリと同じレベルだから許してほしい。もっと大出力の飛行機も 存在するので安心しよう。

   ところであなたが飛行気乗りマニアならレッドバロンという名前を聞いたことがあるだろう。この名はエアレースの飛行機名になったりアクロバットチームの名 前になったりいろいろと流用されている。元は第一次大戦中のドイツ軍のエース、マンフレッド.フォン.リヒトホーヘンのことだ。彼は真紅のフォッカー Dr1三葉機を自在に操り、向かうところ敵無し。連合軍の飛行機を次々と撃墜していった。その戦い振りは華麗にして豪快。敵国のパイロットから「レッドバ ロン」として恐れられまた尊敬もされていた。スヌーピーが皮の飛行帽をかぶって犬小屋の上で飛行気乗りを夢見ながら「レッドバロンを探して」も彼のこと。

   そんな彼の愛機、フォッカーDr1はなんとやはり110馬力。セスナ152と同じではないか。つまり我々は当時の最新鋭の戦闘機と同じような飛行機で訓練 をしているのではないか。レッドバロンが生きていたらきっと「こら!素人にそんな飛行機乗せたらあかん!」と叱責するだろう。まあしかし落ち着けバロンは ん。同じ馬力でもフォッカーは丈夫な骨組みに軽い布張り。空中戦のために運動性を追求している。比べてセスナはあくまでも訓練機。素人でも操縦しやすく、 安定性も良い。無茶はできないようになっている。良かった良かった。

   しかし科学の進歩は目覚しい。良し悪しはともかく、もしかしたら10年後くらいにはF-14のよう飛行機で訓練するようになっているかもしれない。そのとき訓練生は言うだろう。「昔の人はちゃちな飛行機で戦争してたんだなあ。」


こちらはレッドバロンの愛機「フォッカーDr1」。精密に再現された模型です。